砂漠の北と南を貫いて、700キロ。その間、もちろん町も集落もない。 この道を2日間かけて走り抜けようと思い立った。 なぜこんな道がつくられたのか? それは石油開発のため。 タクラマカン砂漠の地下にはアラブを上回る量の石油が眠っているといわれ、その開発のために、この道路は作られた。 「死亡の海」といわれた砂漠を我々は征服したぞ! と高らかに語られた砂漠公路のゲート。道路は「中国石油」の所有だ。 そしてただ一カ所、その700キロの道のちょうど真ん中に、「塔中」という、トラックの中継基地のような場所がある。文字通り「塔克拉瑪干(タクラマカン)の真ん中」という名の場所だ。 砂漠の南、西域南道のオアシス街、ホータンから長距離寝台バスに乗り込んで塔中を目指すことにした。 切符を買うときに一悶着。 「塔中でおりる人なんていないよ。お前テントや寝袋を持っているのか?」というわけだ。 私はここにトラックの運転手用の簡易な仮眠所があることを知っていたのだ。 結局塔中までの切符は売ってくれず、砂漠公路の終点「輪台」までの切符を買わされ、「途中で勝手におりるならご自由に。俺は知らんからね」という扱いとなった。 ホータンから、夕暮れの砂漠の中をひた走る。最後のオアシス「ニヤ」の町を過ぎる頃にはすっかり日も落ちた。 砂漠の一本道を時速130キロで驀進するバス。心地よい振動でいつの間にか寝入ってしまっていたが、深夜2時、運転手の声で目を覚ます。「塔中だ。ここでおりるんだろ?」 ホータンから10時間近く。荷物と一緒に放り出されたところは、道路の片側に10軒ほどの建物が一直線に並んでいるだけのところだった。 ガソリンスタンドに飲み物を売る店、簡易な食堂・・・。そんなものが並んでいる。 その先を寝ぼけまなこで見ると、なにやら砂漠のど真ん中には不似合いなけばけばしいネオンのついた小さな店が並んでいる。 「髪屋」「按摩屋」「歌舞庁」・・・・。 ありゃ、夜の蝶たちの店なのだ。店の前には露出度の高い女性たちがたむろし、客を待っている。 いやあ、これにはびっくり。北にも南にも300キロ以上人の住む町はない。こんなところに歓楽街があるとは。 まるで砂漠の中に誕生した賭博の街ラスベガスを思わせる光景だった。 仮眠所に荷物を置き、夜空を見ようと表に出る。 砂漠のど真ん中だから、さぞかし降るような満天の星が望めるだろうという期待は裏切られた。 満月と砂嵐で星の輝きが隠されてしまっていたのだ。 夜中に何度も起き出して空を見上げたが、結局朝まで星は見えなかった。 中国移動通信(携帯会社)のアンテナと満月。携帯は砂漠の中の命綱だ。 翌朝。ここから後半の移動をどうするのかが、大きな問題だった。 バスは日に何本か通過しているのだが、始発の街ですでに満杯の乗客を乗せている。途中から乗り込める余裕はまずないぞ、というのがバス会社の説明だった。 当てにならないバスを待っていても仕方がない。通りかかるトラックをヒッチでもするか。 道ばたで手を挙げてみたら、なんと1台目のトラックがすーっと停まり乗せてくれることになった。なんてラッキー! ホータンからウルムチまでタイヤを運ぶ大型トラック。二人の運転手はともにウイグル人。中国語は通じない。 それでもなんとか意志を通わせ、延々7時間の旅を一緒にさせてもらうことになった。 砂の丘陵をのぼったりおりたり・・・。何時間走っても延々と同じ風景が続く。砂漠ってほんとに広大なのだ。こんなに広い土地にだれも住んでいない。 途中のトイレ休憩も、もちろんトイレは砂漠の中。砂の丘を吹き抜ける風を受けながらのトイレタイムは、なんと自由で、なんとおおらかな気持ちになれることか。 言葉が通じない者同士がなんとか意志を通わせようと必死になり、退屈さを紛らわすために手持ちの食べ物を与え合ったり、歌を歌ったり・・・。 こうして、夕方近く。砂漠公路の終点に着いた。二日がかりの砂漠縦断の旅は無事終わった。 「ラフマット!!」 覚えたばかりのウイグル語でありがとうと何度も伝える。 トラックはウルムチを目指して右折し、私はクチャの街を目指して、次のクルマを探し始めた。
by shonanvil
| 2007-05-17 22:17
| じゃらん日記NEW
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